Dec 31, 2016
ノースダコタ州の先住民スタンディングロック・スー族のパイプライン建設反対運動は、高江や辺野古の基地拡大反対運動につらなる非暴力不服従運動として語られることも多くなっています。
確かに多くのことが共通しています。先祖代々受け継がれてきた自然と土地を守りたい先住の人々、国や巨大ビジネスによる現地の人々の思いを無視した巨大な建設計画、計画が実現してしまうとその影響がその土地は現地周辺だけではなく遠く離れて暮らす大勢の人たちにも及ぶこと、建設のしわよせが選ばれてしまった一部の人たちだけに過重に押しつけられ、元から存在した差別が反対の声を聴かない要因のひとつになっていること、反対する市民活動に暴力的な取締や規制が課されていることなど、私自身、なんど、高江のことを思ったことでしょう。
現在、一時的な「勝利」が伝えられたものの次期大統領トランプの就任が決定的な試練を与える火種となると予測されているこの民衆運動の大きなうねりの現在と意義、ありうるかもしれない大きな可能性について大晦日を機にまとめてみました。
ダコタ・アクセス・パイプライン建設反対運動がソーシャルメディアなどで広く語られるようになったのは、9月始めに警備員が何の武器ももたない先住民に犬をけしかける暴力的なシーンの映像が流れた頃からでした。
10月になると、警備側の暴力はますます進み、警察はもちろん、知事が動員した州兵、建設会社が雇った民兵なみの警備員が束になり、戦闘地を思わせる警備の軍事化か出現しました。特に先住民側が、1851年に先住民と合衆国政府との間に結ばれた「ララミー砦条約」を根拠に予定されているパイプラインの通過地点上に野営地を設営しようと試みると、催涙弾、ゴム弾などによる攻撃が行われ、負傷者・逮捕者が続出しました。
しかし、この弾圧は全米の人々に先住民側への同情と共感をかきたて、「水を守る人」スタンディングロック・スー族を支援しようと米国内はもちろん、南アメリカからも先住民が訪れ、、数千人にものぼる退役軍人も支援に駆けつけました。
こんな中、12月はじめになるとパイプラインがミズーリ川の川底の地底を通過する地域を管轄している米陸軍工兵司令部が建設許可を取り消し、パイプライン建設反対運動はとりあえずの「勝利」を得ることができました。
ノースダコタ州の冬はただものではなく、厳しい自然の中、限られた資源をやりくりしながら冬を越すだけでも大変です。そのため、スタンディングロック・スー族は、「勝利」を機に集まっていた数千人の支援者たちにとりあえず引き上げ、緊急事態が発生したらまた駆けつけてほしいと要請しました。
こうして、建設予定地から離れた支援者たちは。パイプライン建設の投融資している銀行に圧力をかける活動に以前にもまして力を注ぐようになりました。
40億ドル近い金が注がれるこのパイプラインには、多くの銀行が投融資を行っています。米国のバンク・オブ・アメリカ、シティ・バンク、JPモルガン・チェイス、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックスのほか、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、オランダ、スイス、ノルウェー、ブラジル、スコットランドの大手多国籍銀行、そして日本の三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、そして日興証券の名もみられます。
投融資撤退を求める市民の運動がすでに成果をあげた国もあります。ノルウェー最大の銀行DNB、そして大手ファンドの「オディン・ファンド・マネージメント」はすでに投資を撤退し、スエーデンのノルディア銀行も、エナジー・トランスファー社が先住民の声を聴かないようなら投資を撤退すると発表しました。DNBが300万ドルの投資撤退を決めたのはグリーンピースを通して12万人の署名を受け取ったからです。日本の銀行への圧力も重要なのです。
12月29日付ガーディアン紙によると、建設予定地での抵抗運動と金ヅルを押さえる投資撤退運動との組み合わせは、かなりの効果をもつようなのです。
というのも、ダコタ・アクセス・パイプラインの当初の完成予定期日は、2016年12月末でしたが、この達成は不可能です。建設が遅れると運営会社であるエナジー・トランスファー社には1ヶ月ごとに450万ドルの損失が生じるとされています。そんな中、建設資金の約半額を担うはずのカナダのパイプライン運営会社エンブリッジ社とマラソン社が、12月末に完成しなかったことを理由に資金投資から手を引く可能性が出てきたのです。二社は、2017年3月31日までに決定をくだすとしています。
さらにガーディアン紙によると、このパイプラインの建設理由そのものが揺らぎかねない状況です。ダコタ・アクセス・パイプラインは、アメリカのシェール石油の代表的な産出地域であるバッケン地域から産出される原油を運ぶ予定ですが、この地域での掘削は当初の予想よりも困難で産出高は減少しています。しかも、原油価格は、建設プロジェクト開始時に比べ、大幅に低下しています。建設があまりにも困難になるようなら新しいパイプラインに期待せず、従来の輸送法でまかなった方が合理的となる可能性がなきにしもあらずなのです。
デモクラシー・ナウ!でおなじみの先住民活動家ウィノナ・ラデュークは、9月12日の番組でこのパイプラインを「ダコタ・アクセス・パイプライン」ではなく、「ダコタ・エクセス(過剰)・パイプライン」つまり生産量に対して要りもしない過剰なパイプラインだと評しましたが、これにとどまらず、先住民に影響を及ぼすパイプラインの建設計画は、まだほかにいくつもあり、「パイプラインをひとつひとつ阻止しながら一生が終えることになりかねない」とも語っています。
また、ラデュークの話では、化石燃料に関して、先住民も一枚岩ではありません。豊かな緑や広々とした平原を奪われインフラもない先住民の中には、石油産業で生業をたてている人たちもいます。たとえば、ナバホ族の経済の85%は化石燃料産業に依っています。先住民の中でも貧富の差があり、指導者層の腐敗もみられます。しかし、自然や先祖・子孫を大切にする心は同じです。スタンディングロック・スー族のパイプライン建設反対には、こうした部族も代表を送り、支援を表明したと言います。
ダコタ・アクセス・パイプラインの建設阻止が「もうひとつのパイプラインつぶし」で終わらず、代替エネルギーへの抜本的な転換へと発展することがラデュークたちの願いなのです。
スタンディング・ロックがおさめた「勝利」は一時的なものにすぎません。次期大統領トランプの就任がまぢかだからです。
パイプラインの運営会社であるエナジー・トランスファー・パートナーズのCEO、ケルン・ウォレンは大統領選でトランプに150万ドルの寄付をしました。また、トランプはすでに売却したとするもののエナジー・トランスファー・パートナーズに50万ドルから100万ドル近いと言われる投資をしてました。新任の環境庁長官に地球温暖化懐疑論者を選び、就任後、このパイプライン建設に反対しないと公言しています。
しかし、その一方でこの反対運動はすでに前例のない人々の組み合わせによる大規模な連帯を生んでいます。
先住民の地で先住民の価値観や人と人、自然とのつながりからインスピレーションを得て、都市を基盤としたこれまでの市民運動とは違う新しいアクティビズムの形が組み立てられていく可能性もあるのです。
闘いは、まだこれからなのです。
2016© Hideko Otake
ノースダコタ州の先住民スタンディングロック・スー族のパイプライン建設反対運動は、高江や辺野古の基地拡大反対運動につらなる非暴力不服従運動として語られることも多くなっています。
確かに多くのことが共通しています。先祖代々受け継がれてきた自然と土地を守りたい先住の人々、国や巨大ビジネスによる現地の人々の思いを無視した巨大な建設計画、計画が実現してしまうとその影響がその土地は現地周辺だけではなく遠く離れて暮らす大勢の人たちにも及ぶこと、建設のしわよせが選ばれてしまった一部の人たちだけに過重に押しつけられ、元から存在した差別が反対の声を聴かない要因のひとつになっていること、反対する市民活動に暴力的な取締や規制が課されていることなど、私自身、なんど、高江のことを思ったことでしょう。
現在、一時的な「勝利」が伝えられたものの次期大統領トランプの就任が決定的な試練を与える火種となると予測されているこの民衆運動の大きなうねりの現在と意義、ありうるかもしれない大きな可能性について大晦日を機にまとめてみました。
これまでの流れ
10月になると、警備側の暴力はますます進み、警察はもちろん、知事が動員した州兵、建設会社が雇った民兵なみの警備員が束になり、戦闘地を思わせる警備の軍事化か出現しました。特に先住民側が、1851年に先住民と合衆国政府との間に結ばれた「ララミー砦条約」を根拠に予定されているパイプラインの通過地点上に野営地を設営しようと試みると、催涙弾、ゴム弾などによる攻撃が行われ、負傷者・逮捕者が続出しました。
しかし、この弾圧は全米の人々に先住民側への同情と共感をかきたて、「水を守る人」スタンディングロック・スー族を支援しようと米国内はもちろん、南アメリカからも先住民が訪れ、、数千人にものぼる退役軍人も支援に駆けつけました。
こんな中、12月はじめになるとパイプラインがミズーリ川の川底の地底を通過する地域を管轄している米陸軍工兵司令部が建設許可を取り消し、パイプライン建設反対運動はとりあえずの「勝利」を得ることができました。
ノースダコタ州の冬はただものではなく、厳しい自然の中、限られた資源をやりくりしながら冬を越すだけでも大変です。そのため、スタンディングロック・スー族は、「勝利」を機に集まっていた数千人の支援者たちにとりあえず引き上げ、緊急事態が発生したらまた駆けつけてほしいと要請しました。
パイプラインに投融資する銀行に圧力
こうして、建設予定地から離れた支援者たちは。パイプライン建設の投融資している銀行に圧力をかける活動に以前にもまして力を注ぐようになりました。
40億ドル近い金が注がれるこのパイプラインには、多くの銀行が投融資を行っています。米国のバンク・オブ・アメリカ、シティ・バンク、JPモルガン・チェイス、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックスのほか、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、オランダ、スイス、ノルウェー、ブラジル、スコットランドの大手多国籍銀行、そして日本の三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、そして日興証券の名もみられます。
投融資撤退を求める市民の運動がすでに成果をあげた国もあります。ノルウェー最大の銀行DNB、そして大手ファンドの「オディン・ファンド・マネージメント」はすでに投資を撤退し、スエーデンのノルディア銀行も、エナジー・トランスファー社が先住民の声を聴かないようなら投資を撤退すると発表しました。DNBが300万ドルの投資撤退を決めたのはグリーンピースを通して12万人の署名を受け取ったからです。日本の銀行への圧力も重要なのです。
パイプライン建設を空中分解させる可能性
12月29日付ガーディアン紙によると、建設予定地での抵抗運動と金ヅルを押さえる投資撤退運動との組み合わせは、かなりの効果をもつようなのです。
というのも、ダコタ・アクセス・パイプラインの当初の完成予定期日は、2016年12月末でしたが、この達成は不可能です。建設が遅れると運営会社であるエナジー・トランスファー社には1ヶ月ごとに450万ドルの損失が生じるとされています。そんな中、建設資金の約半額を担うはずのカナダのパイプライン運営会社エンブリッジ社とマラソン社が、12月末に完成しなかったことを理由に資金投資から手を引く可能性が出てきたのです。二社は、2017年3月31日までに決定をくだすとしています。
さらにガーディアン紙によると、このパイプラインの建設理由そのものが揺らぎかねない状況です。ダコタ・アクセス・パイプラインは、アメリカのシェール石油の代表的な産出地域であるバッケン地域から産出される原油を運ぶ予定ですが、この地域での掘削は当初の予想よりも困難で産出高は減少しています。しかも、原油価格は、建設プロジェクト開始時に比べ、大幅に低下しています。建設があまりにも困難になるようなら新しいパイプラインに期待せず、従来の輸送法でまかなった方が合理的となる可能性がなきにしもあらずなのです。
パイプライン建設阻止で一生を費やす可能性
デモクラシー・ナウ!でおなじみの先住民活動家ウィノナ・ラデュークは、9月12日の番組でこのパイプラインを「ダコタ・アクセス・パイプライン」ではなく、「ダコタ・エクセス(過剰)・パイプライン」つまり生産量に対して要りもしない過剰なパイプラインだと評しましたが、これにとどまらず、先住民に影響を及ぼすパイプラインの建設計画は、まだほかにいくつもあり、「パイプラインをひとつひとつ阻止しながら一生が終えることになりかねない」とも語っています。
また、ラデュークの話では、化石燃料に関して、先住民も一枚岩ではありません。豊かな緑や広々とした平原を奪われインフラもない先住民の中には、石油産業で生業をたてている人たちもいます。たとえば、ナバホ族の経済の85%は化石燃料産業に依っています。先住民の中でも貧富の差があり、指導者層の腐敗もみられます。しかし、自然や先祖・子孫を大切にする心は同じです。スタンディングロック・スー族のパイプライン建設反対には、こうした部族も代表を送り、支援を表明したと言います。
ダコタ・アクセス・パイプラインの建設阻止が「もうひとつのパイプラインつぶし」で終わらず、代替エネルギーへの抜本的な転換へと発展することがラデュークたちの願いなのです。
未来に向けた連帯の大きな可能性
スタンディング・ロックがおさめた「勝利」は一時的なものにすぎません。次期大統領トランプの就任がまぢかだからです。
パイプラインの運営会社であるエナジー・トランスファー・パートナーズのCEO、ケルン・ウォレンは大統領選でトランプに150万ドルの寄付をしました。また、トランプはすでに売却したとするもののエナジー・トランスファー・パートナーズに50万ドルから100万ドル近いと言われる投資をしてました。新任の環境庁長官に地球温暖化懐疑論者を選び、就任後、このパイプライン建設に反対しないと公言しています。
しかし、その一方でこの反対運動はすでに前例のない人々の組み合わせによる大規模な連帯を生んでいます。
先住民の地で先住民の価値観や人と人、自然とのつながりからインスピレーションを得て、都市を基盤としたこれまでの市民運動とは違う新しいアクティビズムの形が組み立てられていく可能性もあるのです。
闘いは、まだこれからなのです。
2016© Hideko Otake
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