2016年4月12日火曜日

汚染:嘉手納空軍基地の汚れた秘密―米情報公開法による公開文書 在日米軍基地での大規模汚染をはじめて明らかに(ジョン・ミッチェル)

2016年4月9日付「ジャパンタイムズ」に掲載されたジョン・ミッチェル氏の記事を(ミッチェル氏の同意を得て)急ぎ翻訳しました。

英語原文は、ここ


汚染:嘉手納空軍基地の汚れた秘密:
米情報公開法による公開文書 在日米軍基地での大規模汚染をはじめて明らかに

ジョン・ミッチェル

2016年4月9日

沖縄本島の中心に位置する嘉手納空軍基地は、アジア最大の米空軍軍事施設だ。

長さ3.7キロの滑走路2本、数千戸もの格納庫、住宅、作業場を備えたこの基地の広大な敷地は、隣接する弾薬庫と合わせて46平方キロを占める。基地で勤務し、居住する米国軍人、軍属、その家族は2万人を超え、日本人雇用員は3000人を数える.

嘉手納空軍基地には、米空軍最大の空団「第18航空団」が配属され、過去70年間にわたり、朝鮮・ベトナム・イラク各戦争で出撃基地として重要な役割を果たしてきた。

嘉手納空軍基地の長い歴史とひとつの市がすっぽりはいる規模からも、この米空軍基地が「太平洋の要石」と呼ばれる理由は、一目瞭然だ。

だが、この基地が、周辺地区の環境と住人に及ぼしている損傷を明確に理解することは、これまで誰にもできなかった。米情報公開法に基づいて入手した文書が、長年にわたる事故と過失により、基地の土地と水が砒素、鉛、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、アスベスト(石綿)、ダイオキシンなどの有害化学物質で汚染されてきたことを明らかにする。米軍当局者は、汚染を隠蔽し、自国の軍人と周辺地区に住む18万4000人の住民の健康を危険にさらしてきたのだ。



今週の記事では、地域の水源の汚染と、基地内外の住民の鉛とアスベストへの曝露を見ていく。補足記事では、現在のガイドラインの欠陥により、在日米軍による汚染の隠蔽が可能になっている事情を明らかにする。

次週の記事では、嘉手納基地で現在進行中のPCB汚染管理への取り組み、基地内の2つの学校周辺で発見された有害廃棄物の隠蔽、PCB汚染の人体への影響を取り上げる。

1月に、米空軍は、嘉手納空軍基地の汚染に関する8725ページに及ぶ事故報告書、環境調査、および電子メールを公表した。1990年代から2015年8月にいたる文書は、現在、稼働中の在日米軍基地での近年の汚染の詳細を始めて公表した文書だ。

同文書には、1998年から2015年までに起きた415件あまりの環境事故が記載されている。うち、245件は、2010年以降に、起きた。事故には、基地内にとどまった小規模な漏出から数万トンもの燃料や未処理の下水が地域の河川に放出された大規模の流出まで含まれる。

1998年から2015 年までの漏出を合計すると、ジェット燃料約4万リットル、ディーゼル燃料(軽油)1万3000リットル、下水48万リットルなどにおよぶ。2010年から2014年までに通報された事故206件のうち、51件は事故あるいは過失が原因だ。日本の当局に報告されたのは、23件にとどまる。

事故件数が最大だったのは2014年だが、日本政府に報告されたのは、59件中、わずか2件にすぎない。

公開された文書の多くは編集されており、2004年から2007年までの報告書は、はいっていない。こうした脱落を考慮すれば、実際の統計数がもっと高いことは、間違いない。

地勢上、嘉手納空軍基地が沖縄本島の飲用水の供給に果たす役割は、きわめて大きい。基地内には23の井戸があり、そのうちのいくつかは、基地の飲用水に使われている。基地内の雨水は、30万メートルを超える配水管を通り、比謝川はじめ、地域の河川に運ばれる。比謝川は、6つの市町村および県庁所在地である那覇の飲用水の水源だ。

基地でのミスと過失により、この給水源が汚染されてきたことが、公開文書からわかる。

たとえば、2011年8月には、台風到来前に技師が発電機のタンクを放置したために、ディーゼル燃料760リットルが、比謝川に流出した。2011年12月には、警告灯が無視され、1400リットルのディーゼル燃料がキャンプ・マクトリアスの米空軍住宅から漏出して天願川を汚染した。

別の報告書からは、コミュニケーションの齟齬により、漏出事故の被害を悪化したことがうかがえる。2012年6月、整備士がフードコートに行っていたため、電話が鳴っていたのが聴こえず、190リットルの燃料流出への対応に1時間20分、かかってしまった。もっと最近の例では、2015年2月、緊急班が警告したにも関わらず、環境チームが2つの事故の対応に失敗し、最初の事故では、燃料170リットル、2番目の事故では油圧油23リットルが漏出した。

漏出は、燃料にとどまらない。嘉手納基地では、2001年から2015年までに2万3000リットルの泡消化剤が誤って放出された。2012年、8月には、日本の消防士が消火装置を始動させた事故で、1140リットルが放出された。次に2015年5月には、酩酊した米海兵隊員の破壊行為により、1510リットルが放出された。こうした泡状の消化剤には、再生機能や神経機能に障害を起こしかねない発がん性物質や有機フッ素系化合物(PFOS)が含まれている可能性がある。PFOSは、米環境保護庁により 新たな汚染物質に類別されており、最近、沖縄と米国で共に懸念材料として注目を浴びている。

1月、沖縄県は、嘉手納航空基地周辺の河川がPFOSで汚染されていると発表した。2008年には、基地内の井戸の測定で、1リットルあたり1870ナノグラムという高い数値が検出された。米環境保護庁が出している健康に関する勧告は、飲用水の暫定的な上限を、1リットルに付き200ナノグラムとしている。先月、米空軍はアメリカ国内の664の基地でPFOS 汚染の検査を実施すると発表した。

本記事の公開時点で、在日米軍のスポークスマンは、同様の検査を沖縄や日本のほかの基地で実施するかどうか、回答できずにいる。

東京の環境総合研究所顧問の池田こみちは、「現在の研究から、PFOSには、発がん、再生障害、次世代の損傷を起こす可能性があることが示唆される」と言う。

「妊娠中の女性と子供は特に、PFOSで汚染された水を飲まないよう気をつける必要がある」と言うのだ。

2008年以来、嘉手納航空基地では、 PFOS源として知られる油圧油が、少なくみつもっても1670リットル漏出している。また、基地の火災訓練区域では、泡消化剤の撒布が日常的に行なわれているが、この区域からの下水は、地域の河川に注ぎこむ。

沖縄の給水源へのもうひとつの脅威は、未処理の下水の漏出だが、これに関して基地で記録がとられるようになったのは、ようやく2010年になってかららしい。2010年11月には、5万7000リットルの下水が白比川と海を汚染し、100ミリリットルに付き3万6000の糞便性大腸菌コロニーが測定された。これは環境保護庁が設定している水泳用の水の上限値の90倍にあたる。

もっと最近では、2013年6月にマンホールがあふれ、20万8000リットルの下水が比謝川に漏出した。基地が現地の当局に通知した時には、27時間が経過していたのだが、遅まきながら出されたプレスリリースには、「我が国の軍人と現地コミュニティの友人たちの安全と健康は、我々の最優先事項です」と書かれていた。 その後、米軍職員の間で取り交わされた電子メールでは、「メディアが、報道が少なかったのは、朗報だ」とコメントされている。

さらに、公開された文書で目を引くのは、市民生活が営まれる地域社会の真っ只中で操業される交通量の多い空港がもたらする危険性だ。飛行中の緊急事態でパイロットが何度となくミッションを中止している。また、2011年8月には、飛行中の緊急事態により、F15機が低空から150リットルの燃料を放出せざるをえなかった。報告書は、「現地コミュニティには、何ら影響がなかった」と締めくくっている。

地上に話を戻そう。情報公開法によって入手した文書から、危険なレベルの鉛とアスベストにアメリカ人も日本人も曝露していることがわかる。

数十年間にわたり、基地内の加熱炉は、弾薬および「その他の発光弾」を、排ガス規制皆無で焼却していた。

1993年の調査では、こうした焼却により周辺の土地で1キログラムに付き13813 ミリグラムの汚染、少し離れたジャングルでは、1キログラムに付き 6000 ミリグラムの汚染が検出された。この地域には、「小規模農場と野菜畑」があり、焼却施設は河川にも近かった。

1994年4月の報告書に記載されている別の焼却場では、やはり近隣とおぼしき畑の土壌での鉛汚染は1キログラムに付き500ミリグラムを超えていた。

日本政府が設定している土壌の鉛汚染の除染基準は、1キログラムに付き150ミリグラムだ。日本では、農地の基準は決められていないが、ドイツで許容されている農地の基準は、1キログラムに付き100ミリグラムだ。

「このような地域で作業する人々は、知的障害および、神経系の損傷を懸念する必要がある」と池田は言う。「また、こうした鉛やその他の物質を長期間にわたって吸引したとすると、再生機能が損傷を受けたり、血液や腎臓などの器官が危害を被っている可能性がある。汚染レベルが大変高いため、土地がいまなお汚染されている可能性が大変、濃厚だ」と、言うのだ。

池田はまた、これらの報告書に、弾薬の焼却中に放出される可能性が高い、ほかの重金属のデータが欠如していることを批判する。焼却された弾薬の中には、1990年代に米空軍が広範に使用していた劣化ウランなども含まれているのだ。

そのうえ、2000年から2001年までの調査から、寮や食堂、ボイラールームなど数多くの建物で深刻なアスベスト汚染が起きたことがうかがえる。検査官たちは、近辺の芝生に撒かれ、劣化が進行中のアスベストの大きな塊を発見した。2000年以前には、「準備訓練」の場として使われたかつての病院跡地も、汚染された場所のひとつだ。アスベストがたっぷりの扉を兵士たちが斧やチェインソーでこじあけたため、「易砕性」(簡単にくだける)のアスベストが460平方メートルにわたって飛散したことを、検査官たちは知るはめになった。

世界保健機関は、世界各地で職業により発生したがんで死亡した人の3分の1は、アスベストが原因だと推定している。近年、基地の日本人雇用者たちは、アスベストで汚染された環境での作業が発症を導いたとして国に対して損害賠償を求め訴訟を起こしている。2014年、日本政府は被害者28名に賠償金を支払うことに合意したが、疾病者の数は数百人におよぶと専門家はみている。

元基地雇用者のタムラ・ススムは、アスベストの危険性を身をもって経験した。1990年代まで米軍基地で働いていたタムラの証言は、アスベスト関連の肺疾患で死亡した同僚の遺族が賠償を勝ちとる助けとなった。

ジャパン・タイムズによる最近のインタビューでタムラは、米軍に雇用される沖縄の人々の多くが直面するジレンマをこう回想した。「やれと命じられるると間違っていると思っても、拒否できなかった。解雇が恐かった」とタムラは言う。

基地での勤務期間中に、タムラは生ぬるい環境基準を目にしていた。廃棄物の不法投棄やずさんな清掃作業は日常茶飯事だった。

「いまでは、安全条件は改善されたかもしれません。でも、ひと昔前には、米軍は『やりたい放題』だったのです」


補足記事
[情報公開法で、秘密にされてきた嘉手納航空基地汚染の歴史が明らかに]

現在、在日米軍基地の数は130。うち、32が沖縄県に設置されている。だが、基地で勤務するアメリカ人も地元住民も、こうした軍事施設が健康や環境にどんな危険を及ぼしているのか、知らされずにいる。

問題の原因となっているのは、日米地位協定(SOFA)だ。この取り決めのため、日本の政府関係者は米国基地内の汚染を検査することを許されないない。— また、民生利用のために土地が返還されても、米軍には清掃を行う責任が課されない。

2015年、日米両政府は、地位協定に補足協定を組み入れ、流出が起きた場合、自治体に基地の調査を求める権利を与えることで合意した。だが、今日にいたるまで、米国防総省がそのような検査に許可を出した例はない。

日米地位協定とこの新規の補足協定が日本の環境保護に役立たないとなると、「日本環境管理基準」に頼らざるを得ない。この指針は、特定の量を超える、あるいは有害物質のリストに記載されているが物質が含まれる場合など、米軍が日本政府に流出を報告する必要がある場合を特定している。だが、基地が環境政策に違反しても処罰は課されないし、米軍は基地外の汚染への責任を問われない。

米情報公開法に基づいて、最近、公開された文書は、米空軍当局者たちが、環境事故を隠蔽しようと共謀した事例を明らかにした。たとえば、2014年7月、嘉手納航空基地内に埋められていた化学物質を貯蔵したドラム缶が発見されたとき、対応にあたる人々に向けて送られた電子メールには、「目立たせないように。報道関係者にこのことが公表されよう望む」という一文がある。

欠陥のある規制と透明性の欠如が一体となり、在日米軍基地内の汚染を解明しようとする取り組みを阻んでいる。科学者たちが検査できるのは、民生利用のためにすでに返還された土地に限られているが— 、これでは汚染予防に、まったく間に合わない。あとは、稼働中の基地周辺で捕獲した野生生物に有毒物質の痕跡が残っているのをたどることに、希望を託すしかないのだ。

こうした制約を考えると、情報公開法は、厳重に閉ざされた基地の蓋をこじあけるもっとも効果的な方法のひとつといえる。

「嘉手納航空基地に関して今回公開された文書は、情報公開法の力を示す、絶好の例だ。アメリカ政府は、世界各地で多くの活動に加担しており、国際コミュニティには、問いたい疑問が山積みだ」と語るのは、本文書の公開を確実なものとするために支援を提供した団体「マックロック(MuckRock)」メンバー、ベリル・リプトンだ。

「情報公開法は市民に大きな力を与えてくれる。公式なプレスリリースやステートメントでおしまいというわけには、もういかない。— 政府当局者の発言をチェックすることが可能だ。情報公開法によって、アメリカ政府に彼ら自身のことばを盾にとり、彼らの法律で縛りをかけることができるのだ」。

[翻訳:大竹秀子]

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