2018年4月7日土曜日

ベルタ・カセレス 水と命をめぐりインディオとブラックの先住民がひとつになったホンジュラス


3月2日、ホンジュラスの先住民環境活動家ベルタ・カセレスの命日にドキュメンタリー映画『ベルタは死んでない。たくさんのベルタになった(Berta Didn’t Die. She Multiplied)』の上映会が全米各地で開かれました。

Berta Didn’t Die, She Multiplied! 30 Minute cut from Sam Vinal- Mutual Aid Media on Vimeo.

ホンジュラス先住民レンカ族のベルタは、ホンジュラス先住民人民組織委員会(COPINH)の創設者の一人で、鉱脈開発、ダム開発など先住民の生きる場を奪う環境破壊に果敢に反対しました。
レンカ族は自らを大地と水とトウモロコシの子供と考えていて、中でも有名な活動は、聖なる水とのアクセスを実質的にもスピリチュアルにも断ち切るグアルカルケ川のアグア・サルカ水力発電ダム建設計画への反対でした。一度は世銀をバックにした中国の会社による計画の阻止に成功し、世界に大きな勇気を与えたのです。



ところが、ダム計画は消えませんでした。ホンジュラスの腐敗した政権、銀行、大富豪、軍、警察などをバックにした再度のダム建設計画がDESAという会社により再開され、ベルタは抗議を続ける中、2016年3月2日に、深夜自宅に侵入した殺害者によって射殺されました。

当初、警察は、犯人はCOPINH内部者だと言いはっていましたが、国際的弁護士たちによる調査グループも組織され、容疑者が逮捕されるようになりました。その中には、悪名高い米軍の学校で軍事訓練を受けた軍人などが含まれており、またつい最近には、DESAの重役で元ホンジュラス陸軍の情報将校が逮捕され、同社経営陣、大株主、民間警備会社、政府関係者、役人、軍・警察が関わった大がかりな殺害計画がほの見えています。

ホンジュラスは、2009年に時の民主的なマニュエル・セラヤ大統領が軍によるクーデターで倒された後、アメリカの支援を受けた軍が2倍に増強され、グローバル化、環境破壊をものともしない開発に拍車がかかりました。アメリカの国策にとってうっとうしい存在だった中道左派のセラヤを放逐したクーデターの影には、アメリカ、特に時の国務長官だったヒラリー・クリントンが関与したと言われています。

ベルタは、クーデター時、国外のコスタリカに移送されていたセラヤの帰国を支援するなど、政治的な活動も行い、現政権を敵にまわすやっかいな存在でもありました。

クーデター後の2010年から2017年まで、ホンジュラスでは環境活動家が124人殺害されており、環境保護運動家にとって世界一危険な国と言われています。

公開されたDESA重役の通信記録を見ると、関係者が何をやっても法の手は届かないとたかをくくっていたようすがうかがわれます。ベルタは、生前、繰り返し生命の脅迫を受けており、2015年に環境アクティビズム界のノーベル賞とよばれる「ゴールドマン環境賞」を受賞したことによる国際的圧力が、暗殺計画を止めることができないだろうかという一縷の希望も踏みにじられました。

ベルタの強さは、母親ゆずりと言われています。助産師で社会活動家だった母親のアウストラ・ベルタ・フロレスさんは故郷の町、ラ・エスペランサの市長を務めたこともあります。映画に登場するフロレスさんの娘を失った悲しい顔に心が痛みます。でも、ベルタさん暗殺後は、娘のベルタ・イサベルさんが活動を引き継ぎ、20代半ばなのに暗殺解明の国際的調査団のメンバー選定も行ない、母親の死を解明し、無駄にせず、運動を前に進めようと意欲的に取り組んでいます。

映画『ベルタは死んでない。たくさんのベルタになった』は、先住民はもちろん、LDBTQなど社会の終焉におかれてきた人たちの命と暮らしを尊ぶ活動を続けてきたベルタの運動が、その死によってかき消されることなく、むしろ先住民コミュニティを奮いたたせ、連帯の輪が広がっているようすを見せます。


映画で特に浮き彫りにされているのは、ホンジュラスのブラック・コミュニティ団体、OFRANEH (ホンジュラス黒人同胞団)の活動です。ホンジュラスの先住民の中になんとブラックの人たちがいるとは、私にとって初耳でした。

さっそくググってみたところ、もともとはアフリカからカリブの島につれてこられた黒人奴隷で、反抗したために島から追放されたり、イギリス人につれられていまのホンジュラスの地に渡ってきて解放されたなどさまざまないきさつがあるようですが、以来、ずっとホンジュラス北部の沿岸に住み、主に漁業をいとなんで暮らしてきたようです。いまではホンジュラスの先住民のひとつと数えられていますが、石油精製所建設計画がもちあがっており、暮らしを損なわれかねない環境破壊の危機を迎えています。

COPINHとOFRANEHとの連帯は、2009年のクーデター後のセラヤ支援にさかのぼります。セラヤが追放されたニカラグアの国境近くまでホンジュラス全土を何日もかけて共に行進し、セラヤの帰国を訴えようとしたのです。ベルタの死後、COPINHとOFRANEHはベルタを追悼し共同で集会を開き、ベルタの死が先住民たちの連帯を強めていることがわかります。



とはいえ、アメリカをバックにした権力が相手なので、ホンジュラスでの活動はとても危険です。また、民主党もからんでいるため、アメリカ国内でもホンジュラスの活動家支援の声はまだ弱く、報道も限られています。

そんな中、3月2日は、アメリカの各地で命日を機に映画の上映会をそれぞれのコミュニティが独自で開くことでベルタやホンジュラスでの先住民たちの活動を知らせ広めようという動きが生まれました。NYでは、ブラジル出身のアナ・ポウラさん(私とは、3年前に一緒のチームでパレスチナに行って以来の知り合いです)が中心になってニュースクールで開かれました。



上映後のトークには、OFRANEHの国際広報コーディネイターでホンジュラスから亡命状態でニューヨークに在住中のカルラ・ガルシアさんも出席し、アメリカ国内からの国際的支援を訴えました。

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