2019年5月29日水曜日

『ハミルトン』をぶっとばせ! イシュマエル・リードの風刺芝居がNYでオープン



イシュマエル・リードの風刺芝居“The Haunting of Lin-Manuel Mirand”(『亡霊に取り憑かれたリン=マニュエル・ミランダ』)が、イースト・ビレッジの Nuyorican Poetry Caféで始まった。今年80歳、黒人の詩人・作家・劇作家・編集者・アクティビストとして、アメリカ社会の主流をなす思考の中で目や耳をふさがれてきたアフリカ系アメリカ人が残したことばや、彼らが生きた体験を何十年間にもわたって掘り起こしてきたリードには、ハミルトンを奴隷解放論者として描いたミランダのブロードウェイ大ヒット作『ハミルトン』の史観は、あまりといえばあまりだったに違いない。


『亡霊に取り憑かれたリン=マニュエル・ミランダ』では、プエルトリコ系のミランダが、悪夢の中で続々と登場する亡霊たちに叱られる。黒人奴隷、先住民、白人の年季奉公奴隷、そしてきわめつけは、ハリエット・タブマン。タブマンは逃亡奴隷の身でありながら、奴隷たちをカナダに逃がす「地下鉄道(Underground Railroad)」を組織し、奴隷州に潜入して黒人解放に貢献した歴史的な人物だ。



劇中でお人好しの好青年ミランダは、いずれも彼の芝居には姿を見せないこうした人物たちから、ベストセラーの伝記『ハミルトン』ではすっぽりと脱けているもうひとつの歴史を教えられ、自分もまた巨額を稼ぐブロードウェイ・エンターテイメント・ビジネスの下僕だったと思い知る。

先住民と黒人奴隷が、アイデンティティ・ポリティクス同士でもめるシーンもあり、多様で自由・平等な社会作りがいかに難しいかは、リードも先刻ご承知だ。


問われているのは、アメリカン・ドリームという甘い罠。カリブ海の小さな島で母子家庭で育ち、幼くして母も亡くして孤児になったハミルトンが、ニューヨークに渡り、独立戦争の激動の中でジョージ・ワシントンの庇護を得て活動の場を手に入れ、ばらばらだった州をまとめ合衆国という連邦の基盤を固めた。富豪の娘と結婚し仲むつまじかったにもかかわらず、人妻と恋愛関係におちいってその夫に脅迫され、最後は二大政党のライバルとの決闘で死亡するという、確かにドラマチックで波瀾万丈の人生ではあっても、それだけでアメリカの歴史や社会がすべてわかるわけでもない。何千万、何億の他の物語が、語られずに良いわけもない。

残念ながら、私はミランダの『ハミルトン』をまだみていない。チケットがとりにくいことで有名だったし、いま見ても通常チケット1枚が200ドルとか300ドルとかしていて、ま、そのうちに、いつか、見よう。そういえば、自由の女神もニューヨークに来てから、何年もたってから仕事でようやく見に行った。行ったら、気に入ったけど。


ところで、開演少し前に着いたら、一列前の席にすわっていた方が声をかけてくれた。アジア系の顔は、その時、他に見当たらなかったから、こういうときにはお互い、すぐ目にとまる。出演する役者さんのお母さんで、なんと横浜生まれの日本人。当時、日本に駐留していた黒人の兵士と結婚して1961年からニューヨークでお住まいとのこと。息子さんの出演とあって、どきどきはらはら。どんな役なんですか?と聞いても「恥ずかしいから、言わない」と。でも、芝居が始まったら、すぐわかった。堂々とした長身で精悍な顔。先住民の男の役だ。上演後、お母さんと息子さんとで写真を撮らせていただいた。


公演は、616日までの木曜から日曜。演出は、Nuyorican Poetry Caféでジャズの演奏もしているRome Neal さん。運が良ければ、自家製のバナナ・プディングを食べさせてもらえるかもしれない。







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